百円の面積
ビニル傘を買った。
百円で買える面積はたったこれっぽっち。
片手に荷物を持てばもう、どこかがはみ出すくらいの面積。
それでもないよりはマシ、断然。
少しでも濡れないようにと傘を開いたままビルの軒先に体を寄る。
何となく安定する位置が見付かって顔を上げると、その先に君の姿を捉える。
水溜りを裂きながら走る車の音を掻き分けて駆けてくる君は、急に降り出した雨を受け入れるかのように濡れていた。
「用意周到だね」
君は笑う。
僅かな軒先で雨を払う。
ハンカチで素肌を拭う。
犬のように頭を二度、三度振る。
その様子を見ていたあたしと目が合うと、にかっといつものスマイル。
「…あ、入ってくよね?」
傘の半分を差し出す。
「いーよ、もうどうせ濡れちゃってるし。
それに、みきたんまで濡れちゃうよ」
急に大人びた横顔が、さらりと押し返す。
まるであたしの心ごと。
縫い針が指に刺さったような小さな痛み。
それを感じながら、だけど知らないフリを決め込んで。
「じゃあさ」
あたしは何度目かの前進をする。
一歩だけ、だけど懸命な一歩を踏み出す。
「最初から」
君の腕を軽く引き寄せる。
「折角亜弥ちゃんに近付く口実が出来たと思ったのに、って言えば良かったのかな」
複雑そうな顔してるであろうあたしを真っ直ぐに捉えて、君の唇が紡ぐ。
「それならいーよ」
傘を持つ右腕にひんやりとした君の腕が絡まる。
左腕か雨に晒される。
君の右腕も同じように。
今、君とあたしは二分の一同士。
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